Cool Sweet Honey!

太壱編14

ひかるの誕生日である翌日――僕は緊張しながら彼女の家に向かった。とりあえず日中は映画を一緒に観てご飯でも食べよう、という流れのごくごく普通のデートだ。
玄関先まで迎えにいくと、赤いワンピースを着たひかるが現れた。ひかるはいつもきれいでかわいいけれど、さらに彼女の魅力を引き立てているようで見惚れずにはいられなかった。こうやってひかると一緒に出かけるのも久しぶりだと感じながらも、これからの事を考えると緊張もしていた。上着のポケットには、誕生日プレゼントとして用意した指輪がある。けれど今僕の心のうちにある「結婚」という気持ちがあるのを考えれば、「婚約指輪」を兼ねてしまうかもしれない。

色々な不安を胸に抱えながら時間だけは刻々と過ぎ、日が落ちる。僕もひかるも考えまいとはしていても互いに――このときが近づくのを意識していた。
夕飯を済ませると僕たちは少し無言になりつつも、僕があらかじめとっていたホテルの部屋に向った。この中に入ってしまえばもう後戻りはできない。彼女に確認の意味をこめて視線をやると、目が合った。彼女は何もいわずに僕の手を握り返してきて・・・それだけで、彼女の気持ちは伝わってきた。
部屋の中に入るとすぐにダブルベッドが目に付いた。その光景がやけに生々しくて緊張が増す。

「・・・ひかる」
「うん?」
「シャワー・・・先に浴びてきなよ」
「・・・・・・そうね」

それだけいうのが精一杯だった。情けないながらも上手く言葉が出てこないし、まったく余裕もないのだから。・・・へたくそすぎてひかるに嫌われたらどうしよう・・・そんな不安も大きくなってきて後ろ向きな考えを否定するのに必死だった。情けない、と思う。僕に比べればひかるのほうが余裕があるように見えるし、なんでもないような態度をしている。
とはいっても、ひかるはポーカーフェイスがうまいから表に見える全てを信じるつもりはないけれど。彼女に問うたら否定するかもしれないが、少しは緊張しているに違いない。もしくは、気恥ずかしいのかもしれない。その証拠に、目が合うとすぐに視線を逸らしていた。彼女も僕と同じだと考えると笑いが漏れて、徐々に気持ちが落ち着いた。
――その緊張が落ち着いてきた一方で、次はある別の感情が昂ってきた。そういえば・・・ひかるがシャワーを浴びてるんだった。そのことに思い至ると全身の血が駆け巡るように熱くなり、妄想が止まらなくなってしまった。これくらいのことで、まだ何も始まってすらいないのに馬鹿げてる。そう思いはするもののふり払うことは難しく、僕は思い切りため息をついた。
とりあえず今は邪念を取りさらなければ。がっついていたら絶対に嫌われるし、自分で自分を抑えられる自信もない。集中だ。集中、集中、集中・・・。


「・・・いち。太壱!」
「はいっ!?」
「なにぼうっとしてんのよ。終わったわよ」
「あ・・・うん・・・」

ひかるの問いかけに気づかないほど随分考え込んでしまったらしく、いつの間にか彼女が僕の前にいた。まだ乾かしていない黒髪が水気を帯びていてなまめかしく、無防備な状態の彼女に目を奪われた。さっきまであれだけ精神統一をして、ふり払おうとしていた感情が再び大きくなる。
僕はすくっと立ち上がってひかるに声をかけたあと、足早に浴室に向った。できるだけ興奮を鎮めなければならないのに、逆に高まってばかりだ。もっと余裕ありげに振舞って彼女をちゃんとリードしたいのに、これではできるわけがなかった。
そもそも、ひかるがかわいすぎるのがいけないんだ。彼女を見て平常心でいられるなんて無理な話なんだから・・・・・・そう自分を正当化して、わずかに与えられた冷静になる時間を過ごした。


***


室内はほのかに明るいだけになっていた。僕たちは自然にベッドの上に座って見つめ合う。恐怖だとか嫌悪だとか、否定的な色がひかるの中にうかがえないことで安堵し、自分と同じ気持ちを共有していることがわかって勇気づけられもした。
ひかる、と彼女の名前が自然と口からつい出た。このひかるへの愛情を伝えるにはそれだけじゃ足りはしない。――キスをしたい、と思ったときには体が動いていて、唇を重ね合わせていた。重ねた温もりから体中を支配する熱が生まれていく。ひかるもいつもより大胆で積極的に応えてくれる。
少しの間離れているのも勿体ない気がして、何度もキスをした。自分たちが心から満足するまで貪欲に求め、しばらくしてやっと離した。僕はひかるの存在を確認するように、彼女をそのまま抱きしめる。ひかるはここにいる。夢ではなく現実なのだと思うのには十分すぎるほどだった。
すると、僕の腕の中でひかるがくすりと笑いを漏らした。

「・・・何緊張してるのよ」
「そんな、だって。ひかるを抱くんだから当たり前だよ。それに・・・はじめてだし・・・」
「バカね、そんなのなんとかなるわよ」
「はは、ひかるは相変わらずかっこいいなぁ。そういうところも好きだよ。うん、大好き」
「知ってる」
「・・・・・・ねえ、痛かったらごめんね。下手くそで、余裕なくて・・・気遣ってあげられないかもしれない」
「もう、考えすぎないで。あたしはそんなに弱くない。だから心配しなくても大丈夫よ」


僕を安心させるようにひかるは軽いキスをくれた。今までにはない愛情表現にそれだけで嬉しくなり、笑って彼女の言葉に頷いた。ひかるを傷つけたらどうしようと、嫌われたらどうしようと緊張していた僕にとって、ひかるの言葉の効果は絶大だった。そうだ、何も緊張することも怖がることもないのだ。そう考えると気が楽になった。
自分のしたいように、何度か触れ合うだけのキスを繰り返した。ひかるを抱きしめながら彼女の体の全てに口付けを落としていく。取りこぼしのないように彼女の全てを感じたかった。そして僕の気持ちを十分に伝えられるようにやさしく、労わるようにしてやりたかった。
ゆっくりとひかるをベッドに横にさせ、焦らないように彼女の胸の位置に手を下ろしていった。浴衣だから手を差し入れることは簡単で、ホックをはずすことは後回しにするとブラを押し上げた。そのまま直に柔らかな感触に触れ、また微妙なはだけ具合といい視覚的にかなりきた。愛撫を与えながら一方では浴衣の帯を解き、前を完全にはだけさせた。ブラのホックをはずし、浴衣を脱がせると彼女の完璧な肢体があらわになる。
ものすごく綺麗で扇情的で、僕は恍惚となった。こうして眺めるだけで体が熱くなるけれど、彼女に触れて愛撫して気持ちよくさせたい。舌と手で敏感なところを刺激すると、彼女はちゃんと反応を返してくれた。声を上げるのを我慢しようとしているのもなんだか興奮する光景だ。
しかしその間にもひかるはひかるで、まだ浴衣を着たままだった僕の帯を引っ張り、着衣を乱れさせた。さっさと脱げという意思表示だろう。彼女の勝気な面がここでも現れていて、面白くもあった。

恥ずかしがることも全くないので、ひかるの要求どおり浴衣を脱ぎ捨てた。素肌同士が触れ合うと熱が直接伝わって心地よい。彼女の体の全てがいとしく感じられ、キスをして愛撫をした。彼女の反応はといえば、刺激に耐えて声を漏らさないように必死になっている。そのやせ我慢もかわいく思えたけれど、僕としては声が聞きたい。

「ねえ・・・ひかるのかわいい声が聞きたいなぁ」
「い、や・・・よ」
「おねがい」
「・・・・・・っ」


言葉で頼んでも無理だとわかっている。だから実力行使をした。多少卑怯かもしれないが、今主導権を握っているのは僕であり、こうでもしないとひかるは頼みを聞いてくれない。いまだ誰にも触れられたことがないであろうところをショーツごしに触れると、彼女の体が震えるのがわかった。感じてくれてるんだということがわかって思わず笑みがこぼれる。
ひかるは僕の行為が腹立たしいらしく、きっと睨みつけてくるけれど全然怖くなかった。潤んだ瞳と赤みを帯びた頬で睨まれても、僕を嬉しがらせるだけだ。
そして最後に、彼女のショーツもさっさと取り去ってなにも身に着けていない状態にさせた。彼女が僕のしたことに気をとられている隙に秘められた場所へと手を伸ばす。すると身構える暇さえなかったせいか、ひかるがやっと甘い声を聞かせてくれた。うれしくなってひかるにそう囁くと、彼女は悔しそうに顔をゆがめ突然起き上がった。
次の瞬間にはさっきの彼女とは似つかぬほどしっかりとした声で僕に命じていた。

「あんたもさっさと脱ぎなさいよ!」
「え?う、うん」

ひかるの強い言葉に一寸驚いたものの、元来彼女の命令に従うことが身についてしまっている僕は、大人しく言われた通りにした。ボクサーショーツを脱ぐと、ひかるはそのまま僕に抱きついてきて、唇と舌をうまく使って僕の肌を伝う。戸惑いこそあったものの、好きな女の子にこうやって積極的に触れられるのが嫌なはずがない。甘い感覚に酔いしれ、息を吐いた。
僕は彼女のしたいようにさせていたが、僕は彼女の負けず嫌いでプライドの強い性格をすっかり忘れていたために次に起こりうることを予想できなかった。

「鳴け」
「へっ?」
「あたしに要求する前に、あんたが――」
「う、わーーっ!ちょっ、待った待った待ったー!!」
「なによ」


そう、ひかるは自分だけが感じて声を漏らしたことが気に食わなかったのだ。そもそも彼女が受身でいるわけもなく、どちらかといえば主導権を握っていたいタイプだ。彼女はあろうことか、今一番触れられては困るところへと手を伸ばそうとしていた。そりゃ、ひかるにしてもらいたい願望とか普通にあるし、夢想もしてたさ。だけど今はだめだ、今だけは困る!
今が一生で一度の初めてなのだ。初めてのときは完璧にしたいと、自分が彼女をリードしたいという男の意地ってものがある。ひかるにそのまま主導権を明け渡したら情けないし、彼女を気遣うことも出来やしない。僕はひかるの手首を掴んで思い切り息を吐いた。

「……ひかるにそんなことされたら、耐え切れないよ。そんなのあまりに情けなさすぎるし…。……それにね、今日は僕がしっかりとひかるを愛したいんだ」


ひかるを僕が愛したい。僕の気持ちが彼女に全部伝わるように、労わってやさしくして僕の全てを感じてほしかったから。
僕はまたひかるに負担が少なくなるように愛撫を続けた。ひかるも抵抗することなく僕を受け入れてくれた。次第に互いの息が上がっていくようで、体中が熱くなる。彼女に一回絶頂を味わわせると、僕のほうもだんだんと余裕がなくなって限界が近づいてくる。
ひかる、と呼ぶ自分の声もかすれていて、随分物欲しげな顔をしているんだろうと思う。もういい頃合だと思うけれど、ギリギリの状態で彼女に聞いておかなければと考えていた。

「もう、無理だ。ひかる……ひかるが欲しいよ……」


懇願するような声を出すと、ひかるは答える代わりに軽くキスをくれた。そして僕に向けてくれた微笑をみて、彼女も同じ気持ちなのだと悟った。
それからは正直、いっぱいいっぱいで自分でもよくわからない。やさしくしたいと思っていたにもかかわらず、一旦快楽に流されると理性を取り戻すのは難しかった。それでも信じられないほど満たされて、幸せで、泣きそうだったのはよく覚えてる。
ずっとずっと抱え続けてきた恋心が、やっとあるべきところに収まったという感慨を感じずにはいられなかった。











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